※高城未来研究所【Future Report】Vol.692(9月20日)より
今週は、福岡県柳川にいます。
福岡県南西部に位置する柳川市は、「水の都」としてその名を知られてきました。
町を縦横に巡る掘割は、江戸時代に治水と交通のために整備されたもので、総延長は約470キロメートルにも及び、今もなお人々の生活と文化を支え、独特の風情を醸し出しています。
なによりこの街は、本メールマガジンでも何度もオススメした「うなぎの街」でもあります。
柳川は掘割が網の目のように張り巡らされた水郷地帯ゆえ、古くからうなぎが豊富に生息していました。
江戸時代後期になると、料理人の大谷良平が考案したとされる「うなぎのせいろ蒸し」が生まれます。
蒲焼きにしたうなぎをご飯の上に乗せ、特製のタレをかけて蒸籠(せいろ)で蒸し上げる「うなぎのせいろ蒸し」は、蒸すことで味が染み込み、ふっくらとした他に類を見ない食感を生み出しました。
当時、うなぎは庶民の貴重なタンパク源であり、また滋養強壮の食材としても重宝されていました。
明治になると、柳川の「うなぎのせいろ蒸し」は全国にその名を広め、多くの旅人がこの地を訪れるようになります。
江戸時代から続く伝統の味を守り続ける老舗のうなぎ店が川沿いに軒を連ね、観光客は川下りを楽しんだ後、せいろ蒸しを食べながら、旅の疲れを癒します。
1950年代以降、交通網の発達とともに観光地としての柳川の名が広まるにつれ、堀割とうなぎは街の顔となり、全国から多くの人たちが訪れるようになりました。
川下りとうなぎの食事は、柳川観光の定番コースとして多くの人々を魅了してきましたが、その人気は皮肉にも資源の枯渇を招く結果となっています。
かつて掘割に豊富に生息していたうなぎは姿を消し、今では養殖に頼らざるを得ませんが、「うなぎのせいろ蒸し」の人気はそれこそ「うなぎ登り」となって衰えを見せません。
近年は「柳川うなぎ」としてのブランド確立に力を入れ、品質管理やPR活動を積極的に行い、2017年には「柳川うなぎ」が地理的表示(GI)保護制度に登録されました。
また、堀割は豪雨の際は、雨水を受け入れ「平地ダム」として冠水被害を食い止める役割も担います。
もともと柳川一体は、海に近い低くじめじめした湿地帯や干拓地が多く、掘っても海水しか出ず真水の確保が難しいエリアでした。
河川から水を引いたり雨水を貯めるために掘られたのが掘割ですが、気候変動によって豪雨が激しい九州北部の中で、柳川は堀割を利用し氾濫を避けることに成功しています。
レーダーなど最新テクノロジーを駆使して雨量を予測し、豪雨になりそうな場合に掘割の水を有明海の潮の満ち引きに合わせて満潮になる前にできる限り抜いておく「先行排水」が行われ、リスクマネージメントを行っているのです。
自然排水ができる仕組みとして、掘割には水門がなんと1100箇所!
不便な土地柄とうまく付き合い、上水道の普及や生活排水による水質悪化により埋め立てられそうになったこともありましたが、「自然の大きな循環の中に人間もいる」ということを忘れなかった先人の知恵と努力の結晶が掘割です。
現在、小さな地域に30件近いうなぎ屋があり、人口一人当たりの鰻屋の店舗数日本一!
中秋の名月も終わり、9月も後半になりましたが、まだまだ暑いうなぎの季節です。
日中、37度まで上がってます!
高城未来研究所「Future Report」
Vol.692 9月20日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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